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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)649号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小川信雄の上告理由第一、二点について。

しかし、本件記録に徴すれば本件控訴状における所論被控訴人の表示は東京都千代田区丸ノ内一丁目一番地被控訴人新日本観光株式会社右代表者代表取締役山田新十郎と記載すべかりしを誤つて所論の如く記載したもので全くの誤記であること、しかも右のかきんは所論も云うとおり昭和三〇年二月九日附控訴状補正並びに再送達の申立と題する書面により補正されていることが明認されるのであるから本件控訴状は当事者の特定について何ら欠くるところなきに帰したものと解すべきであり、そして右の如く当事者の表示が単に誤記であるに過ぎず後にそれが補正されている以上(かくの如き誤記の補正は訴訟の係属中いつでもなし得るものといわなければならない)はその控訴の提起により第一審判決の確定は有効に阻止されたものと解すべきことはこれまた多弁を要しないところである(所論判例は本件に適切のものとは認められない)。所論る述の趣旨は叙上と反する独自の見解に出づるものであつて、採るを得ない。

同第三点について。

しかし所論指摘の事実は、被上告人が一審以来主張するところであり、上告人またこれにつき答弁をしている事実が記録上認められるから、原審が被上告人の自白に反して事実を認定した旨の所論は当らない。

かりに、被上告人の所論主張が、いわゆる先行自白の撤回、取消に当ると解しても、上告人はこれにつき異議を述べたと認むべき事跡を記録上認められないばかりでなく、却て直ちにそれについての答弁をしている事実が認められるから、上告人はそれにつき同意を与えたものというべきであり、この点に関する論旨も採用できない。

同第四点について。

しかし一般取引において、手形の譲渡を受けようとする場合、何人も常に必ず所論のような調査をするのが常態である旨の経験則ないし事実たる慣習は認められない。論旨はひつきよう原審の自由裁量に属する証拠の取捨判断および事実の認定を争うに帰するから採るを得ない。

同第五点について。

しかし所論は上告人の「悪意の抗弁」に対する原審の事実およびその自由裁量に属する甲一一号証、証人宮地三得夫および証人細谷守の各証言の取捨判断を非難するだけのものであるから適法の上告理由というに当らない。

同第六点について。

しかし原審が「本件手形は訴外日進土木株式会社が昭和二五年八月七日(白地の補充も裏書もしないで)単なる交付によつて控訴人に譲渡したものである」旨の認定をしたのは、甲一号証の一(本件手形)および甲一一号証並びに第一審および原審における被上告人(控訴人)本人の供述によつたものであることは判文上明らかであり、所論細谷守の偽証部分は右認定に何らの影響はないし、その余の事実認定に、細谷守の証言を採用しているものがないではないが、いずれも他の証拠とともにその一部として採用しているに過ぎず、しかも所論偽証部分は、それら認定に全然関係がないか、もしくは単なる事情に関するものに過ぎないから原判決の結論に何らの影響も及ぼすものではない。それゆえこの点に関する論旨も採用できない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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